佳作

氏名:谷口 興紀
所属:大阪産業大学 名誉教授

「人生100年時代」を先取りした母

100余歳の人生を全うした母(1915年生)は、平凡人そのものです。大正・昭和・平成を、わが国の社会一般の風潮に抗することなく、若くしては親に従い、嫁しては夫に従い、老いては子に従っています。
しかし、真珠湾攻撃のラジオ放送には「あんな大きな国と戦って勝てるはずはない。」と思いつつ、1945年の玉音放送を涙して聞いています。
国策の「産めよ殖やせよ」に従い5人の子をもうけ、子どもの三輪車や結婚指輪も献納しながら、平和が回復すると、戦後の苦しい7人家族の家計の中で指輪を買い整えています。
その人生は「長いものに巻かれろ、しかし流されるな」を示し、「全体の中に居ながら、同時に、その全体を外から見る目線を持て!」と語るかのようです。
平凡に生きる者は、組織のヒエラルキー(階層)の底辺を支えつつ、その外に容易に目を向けることもでき、平凡の偉大さとは、このような無言の語りに現われるのでしょう。